大阪地方裁判所 平成4年(ワ)3647号 判決 1993年4月08日
原告
河岸冨士夫
ほか一名
被告
廣内勤
ほか一名
主文
一 被告らは連帯して、原告河岸冨士夫に対し金七七万五五二五円、原告河岸美智子に対し金三二一万七七二七円及びこれらに対する平成四年五月一〇日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告河岸冨士夫と被告らとの間に生じたものはこれを一一分し、その九を同原告の負担とし、その余を被告らの負担とし、原告河岸美智子と被告らとの間に生じたものはこれを二分し、その一を同原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告らの請求
被告らは連帯して、原告河岸冨士夫(以下「原告冨士夫」という。)に対し金四一六万四〇七九円、原告河岸美智子(以下「原告美智子」という。)に対し金六五六万五三五円及びこれらに対する平成四年五月一〇日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事業の概要
本件は、被告廣内が被告株式会社アンフイニ大阪(以下「被告会社」という。)の保有する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)を運転中、交差点で信号待ちをしていた原告冨士夫が運転し、原告美智子が同乗する普通貨物自動車(以下「原告者」という。)に追突し、原告らが負傷した事故について、原告らが、被告廣内に対して民法七〇九条に基づき、被告会社に対して自賠法三条に基づきそれぞれ損害賠償を請求したものである。
一 争いのない事実
1 交通事故の発生
日時 平成二年二月一五日午後六時一〇分ころ
場所 大阪府東大阪市川俣一丁目一五番三四号先路上
態様 被告廣内が被告車を運転中、交差点で信号待ちをしていた原告冨士夫が運転し、原告美智子が同乗する原告車に追突し、原告らに頸部捻挫等の傷害を負わせた。
2 責任
被告廣内は民法七〇九条に基づき、被告会社は自賠法三条に基づき本件事故に関して原告らに生じた損害を賠償する責任がある。
二 争点
原告らの損害額(原告冨士夫につき通院交通費、休業損害、通院慰謝料、レンタカー代、弁護士費用、原告美智子につき治療費、付添看護料、入院雑費、医師及び看護婦への謝礼、通院交通費、休業損害、逸失利益、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、弁護士費用)(被告らは、原告らの症状固定時期が平成二年五月ころであるとして、損害賠償の範囲は同月末日までであると主張する。)
第三争点に対する判断
一 証拠(甲ないし一一、一六、二〇、乙一、二、原告ら各本人)によれば、以下の事実が認められる。
1 原告冨士夫の受傷及び治療経過
原告冨士夫は、頸部捻挫の傷病名で本件事故当日から平成二年八月二日までの間、東長原病院に通院(実日数五八日)して治療を受けた。右初診時において、原告冨士夫は、運動時及び安静時に後頸部痛、側頸部痛を訴えており、両側の胸鎖乳突筋の起始部に圧痛があり、頸椎棘突起に叩打痛があつたが、上下肢に神経症状はなく、レントゲン検査の結果に異常はなかつた。そして、東長原病院の医師は、ポリネツクカラーによる頸部固定をした後、平成二年三月一日から頸部牽印、温熱療法を開始した。その後、原告冨士夫は、吐き気、頭痛を訴え、頸部痛が持続したため、ポリネツクカラー固定と鎮痛剤の投与を行つた。その間、原告冨士夫は、頸部鈍重感のため、不眠を訴えていたが、神経症状はなかつた。右医師は、原告冨士夫に対し、本件事故後の数日間は安静、休業を指示し、その後の数週間は軽作業程度なら可能であると指示した。右医師は、同年四月二三日当時、原告冨士夫の就業は可能であり、症状が増悪した場合には時々休業が必要であると判断していた。なお、原告冨士夫には、頸部に関する既往症はなかつた。
2 原告美智子の受傷及び治療経過
原告美智子は、頸部捻挫の傷病名で本件事故当日から平成二年三月二九日まで東長原病院に入院し、その後、同年一〇月一一日まで同病院に通院(実日数二〇日)して治療を受けた。右初診時において、原告美智子は、運動時及び安静時に後頸部から側頸部にかけての痛みを訴え、頸部の伸展制限が認められたが、上下肢に神経症状はなく、レントゲン検査の結果に異常はなかつた。右初診時に、原告美智子は、症状を強く訴えており、右病院の医師は、全身安静が必要と判断したが、家庭では家事などのため安静が困難であると考え、原告美智子に対して入院治療を勧めた。その後、原告美智子の症状が遷延し、家事などの軽作業に耐える状態に復するのに約一か月間を要した。そして、原告美智子は、右入院から二三日後に初めて外泊し、入院五週間目以降は、原告美智子が自宅での家事などがどの程度可能であるかを判断するための目的で、外出二回、外泊二回を行つた。右医師は、右入院期間中の同年二月二七日から頸椎牽引、温熱療法を開始した。右入院期間中、原告美智子は、運動時及び安静時に右側頸部の痛みを訴え、頸部の伸展制限があり、第六、七頸椎棘突起の叩打痛が認められたが、神経症状はなく、理学療法で徐々に症状が軽減した。平成二年四月二三日当時、原告美智子には、頸部の運動時の痛み、鈍重感、疼痛のための頸部伸展制限があつた。そして、右医師は、原告の症状固定日が平成二年一〇月一一日であるとの後遺障害診断書を作成した。右症状固定日と診断された当時における原告美智子の自覚症状は、安静時に頸部(正中部から右側)に鈍痛があり、両肩こり(右から左側に強い)が著明であつた。また、原告美智子の他覚的所見としては、頸椎の伸展時に後頸部に疼痛が誘発し、可動域の制限が認められ、左側屈で左頸部に、右側屈で右頸部にそれぞれ疼痛が誘発し、可動域制限が認められ、両頸部傍脊柱筋、僧帽筋に筋緊張が亢進し、圧痛が認められ、両側の大後頭神経に圧痛が著明に認められた。なお、右医師は、原告美智子が本件事故当日から平成二年七月一九日までの間、就業が全く不可能であると判断していた。さらに、原告美智子は、右医師の了解を得て、平成二年四月一六日から平成三年一月二九日までの間、飛田整骨院に通院(実日数五九日)して、温熱療法、牽引、マツサージ、針治療を受けた。また、原告美智子には、頸部に関する既往症はなかつた。
二 原告冨士夫の損害
1 通院交通費 五三九〇円(請求一万三五二〇円)
原告冨士夫は、東長原病院への通院交通費として、本件事故当日である平成二年二月一五日、同年三月一五日、同月一八日、同月二一日の各タクシー代(一部高速道路料金を含む。)を請求しているが、同年三月一八日、同月二一日には右病院に通院していない(甲四)ので、右二日間についての通院交通費は理由がない。
さらに、原告冨士夫の自宅は、大阪府東大阪市東石切町にあり、東長原病院は、同市長田西にある。原告冨士夫宅と右病院間の公共交通機関による往復交通費は八〇〇円である(甲一、一六、原告美智子本人)。
右事実に、前記一1(原告冨士夫の受傷及び治療経過)で認定した原告冨士夫の症状、治療経過を併せ考慮すれば、原告冨士夫には、本件事故当日はタクシー利用の必要性が認められるが、同年三月一五日の通院には、タクシー利用の必要性が認められず、また、高速道路を利用する必要性も認められない。そうすると、本件事故と相当因果関係のある通院交通費は、本件事故当日のタクシー代四五九〇円と、同年三月一五日の公共交通機関の往復交通費八〇〇円との合計額五三九〇円となる。
2 休業損害 三八万四六八五円(三四〇万五一〇九円)
原告冨士夫は、本件事故当時、妻である原告美智子とともに、衣料品の卸小売業をしており、原告冨士夫は、主に卸売りの外回りを担当し、原告美智子は、スーパーマーケツトの中にある貸店舗で小売を主に担当していた。原告冨士夫は、本件事故の翌日である平成二年二月一六日には、電車で右貸店舗に出向き、原告美智子が入院した関係で依頼したアルバイト店員との打ち合わせをするとともに、レンタカーの手配をした。また、原告冨士夫は、同月一七日には、通院のかたわら、外回りの卸売りの業務を再開し、同月二〇日、二一日、二三日は、右貸店舗で一日中、小売に従事し、同月二四日以降は、またアルバイト店員に来てもらつた(甲二〇、原告ら各本人)。右認定事実に、本件事故の発生時刻、前記一1(原告冨士夫の受傷及び治療経過)で認定した原告冨士夫の症状、治療経過を併せ考慮すれば、原告冨士夫は、本件事故の翌日から営業活動を再開しているというべきであるから、本件事故による原告冨士夫の休業日数としては、前記実通院日数五八日間について、通院一回当たり半日間就労することができなかつたと解されるので、二九日間となる。
また、原告冨士夫の平成元年分の申告所得額は、六九一万七二二一円である(甲二一、原告ら各本人)。さらに、本件事故当時における前記原告冨士夫の営業内容、従事員の構成を考慮すれば、右営業における原告冨士夫の寄与度は七割であつたと解すべきである。そうすると、本件事故と相当因果関係のある原告冨士夫の休業損害は、三八万四六八五円(前記申告所得額六九一万七二二一円に右寄与度を適用した四八四万二〇五四円を三六五日で割つた一日当たり一万三二六五円の二九日分。円未満切り捨て、以下同じ。)となる。
さらに、原告冨士夫は、休業損害のうち、本件事故で休業したため、仕入商品が季節はずれになつたりして売れなくなつたことにより、二〇七万九五八九円の営業損害を生じたと主張するが、右営業損害を具体的に認めるに足りる証拠はないうえ、本件事故後における原告冨士夫の右営業活動状況からすると、右営業損害の主張は採用できない。
3 通院慰謝料 三〇万円(請求四三万円)
前記一1(原告冨士夫の受傷及び治療経過)で認定した原告冨士夫の症状、治療経過、本件事故状況、その他一切の事情を考慮すれば、原告冨士夫の通院慰謝料としては、三〇万円が相当である。
4 レンタカー代 一万五四五〇円(請求同額)
原告冨士夫は、本件事故によつて原告車が破損したため、平成二年二月一六日ころから同年三月一七日ころまでレンタカーを借り受け、その代金として一万五四五〇円を支払つた(甲一五、二〇、原告冨士夫本人)。そうすると、右レンタカー代金一万五四五〇円が本件事故による損害となる。
5 弁護士費用 七万円(請求三〇万円)
原告冨士夫の請求額、前記認容額、その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、原告冨士夫の弁護士費用としては、七万円が相当である。
三 原告美智子の損害
1 治療費 六万七八〇〇円(請求二四万一〇〇〇円)
原告美智子は、前記一2(原告美智子の受傷及び治療経過)で認定した飛田整骨院の治療費二四万一〇〇〇円を請求するが、右認定事実によれば、原告美智子の症状固定日は平成二年一〇月一一日であると解され、これに、前記原告美智子の症状、治療経過からすると、飛田整骨院の治療費のうち、同年四月一六日から同年九月一四日までの治療費二二万六〇〇〇円(甲六、原告美智子本人)について、その三割である六万七八〇〇円について本件事故との間に相当因果関係を肯定すべきである。
2 付添看護料(請求八万七五〇〇円)
前記一2(原告美智子の受傷及び治療経過)で認定した原告美智子の入院期間中、付添看護を要したことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、付添看護料に関する原告美智子の請求は理由がない。
3 入院雑費 五万一六〇〇円(請求同額)
前記一2(原告美智子の受傷及び治療経過)で認定した原告美智子の受傷内容、治療経過によれば、原告美智子が東長原病院に四三日間入院した際の入院雑費は、五万一六〇〇円が相当である。
4 医師及び看護婦への謝礼 五万円(請求一〇万円)
原告美智子は、右入院治療の際、医師及び看護婦への謝礼として合計一〇万円程度の金銭及び品物を贈つた(甲一八、原告美智子本人)。右事実に前記原告美智子の受傷内容、治療経過からすると、右のうち五万円について本件事故と相当因果関係を肯定すべきである。
5 通院交通費 一万五二〇〇円(請求同額)
前記一2(原告美智子の受傷及び治療経過)で認定した原告美智子の受傷内容、治療経過に、前記二1(原告冨士夫の通院交通費)で判示したところによれば、原告美智子の通院交通費としては一万五二〇〇円が相当である。
6 休業損害 一二一万六七一〇円(請求一八五万五二三五円)
原告美智子は、昭和一五年一一月七日生まれ(本件事故当時四九歳)で、本件事故当時、前記二2(原告冨士夫の休業損害)で認定した仕事に従事するとともに、夫である原告冨士夫のほか、本件事故当時、幼稚園の保母である二三歳の長女、高校三年生の長男、高校一年生の次男と同居し、主婦として家事労働をしていた(原告ら各本人)。右事実に、賃金センサスを併せ考慮すれば、原告美智子は、本件事故当時、原告美智子の主張する年間二九七万円(月収二四万七五〇〇円)の収入を得る高度の蓋然性があつたと解すべきである。
さらに、原告美智子は、東長原病院を退院後から平成二年六月ころまでは、通院の行き帰りに一時間位店番をする程度であり、同年七月ころからは、家事を除々に再開するとともに、店へも本件事故前の三分の一程度の時間は出るようになつた。そして、同年一〇月ころには店へ出る時間がさらに増え、平成三年になつてからは、本件事故前より二時間程度早く帰宅していたものの、ほとんど店に出られるようになつた(原告美智子本人)。右事実によれば、原告美智子は、前記四三日間(一・四三か月間)の入院中は、本件事故による受傷のため一〇〇パーセント就労することができず、右退院後から平成二年六月末まで(三・〇六か月間)は七〇パーセント就労することができず、同年七月から前記症状固定日まで(三・三六か月間)は四〇パーセント就労することができなかつたと解すべきである。
そうすると、本件事故と相当因果関係のある休業損害は、一二一万六七一〇円(前記平均月収二四万七五〇〇円に前記就労不能期間と就労不能率を適用)となる。
7 逸失利益 二七万六四一七円(請求一七一万円)
前記一2(原告美智子の受傷及び治療経過)で認定した前記症状固定日当時における原告美智子の症状に、前記三6(原告美智子の休業損害)で認定した原告美智子の症状固定日後の就労状況を併せ考慮すれば、原告は、右症状固定日である平成二年一〇月一一日から二年間(中間利息の控除として新ホフマン係数一・八六一四を適用)について五パーセントの労働能力を喪失したと解すべきである。そうすると、本件事故と相当因果関係のある逸失利益としては、二七万六四一七円となる。
8 入通院慰謝料 五〇万円(請求一一〇万円)
前記一2(原告美智子の受傷及び治療経過)で認定した原告美智子の症状、治療経過に、本件事故状況、その他一切の事情を考慮すれば、入通院慰謝料としては、五〇万円が相当である。
9 後遺障害慰謝料 七五万円(請求九〇万円)
前記一2(原告美智子の受傷及び治療経過)で認定した前記症状固定日当時における原告美智子の症状に、前記三6(原告美智子の休業損害)、7(原告美智子の逸失利益)の判示内容、その他一切の事情を考慮すれば、後遺障害慰謝料としては七五万円が相当である。
10 弁護士費用 二九万円(請求五〇万円)
原告美智子の請求額、前記認容額、その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、原告美智子の弁護士費用としては、二九万円が相当である。
四 以上によれば、原告冨士夫の被告らに対する請求は七七万五五二五円(前記二1ないし5の損害合計額)、原告美智子の被告らに対する請求は三二一万七七二七円(前記三1、3ないし10の損害合計額)とこれらに対する本件訴状送達の翌日である平成四年五月一〇日からいずれも支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各連帯支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 安原清蔵)